うんちく

夏のそば

夏は食欲が落ちるせいか、お腹にあまり重くないものを食べたくなる季節です。こんなときにこそ香りの高い、のどこしの良いそばにありつければ申し分ないのですが、残念ながら今の季節はそばの状態が良くありません。秋に収穫したそばはお米と同様に時がたてば徐々に劣化していきます。
しかし、近年は玄そばの保存に気を使い低温貯蔵等で冷蔵管理されています。逆に一年程度寝かせたほうが、味に深みがでることもあるようです(山形 寒晒しそば 会津地方 雪室保存等)。製粉所及びそば店はできるだけ状態の良いそばに仕上がるよう努力されています。そば粉は使用するだけの量を少しづつ注文し、あまりストックしないよう配慮します。また、冷水の使用や加水率及びつなぎの質や量の加減、打ったそばの冷温保存等、様々な試みがなされています。そば粉を保存するには、密封して空気を抜き冷凍保存をお勧めします。一か月以上経っても品質にあまり変化が現れません。
夏にも新そばが食べたいとお客様に言われることがあるそうです。夏そばといって6月~8月ぐらいに収穫するそばはあります。しかし、「夏のそばは犬も喰わぬ」という諺があるように、夏に採れた蕎麦は香り、腰、色艶なども悪く貧弱な味です。蕎麦生産者とそば屋さんでは「夏の蕎麦はな・・・」と品質について語るも対策方法もないと言われていました。しかし、最近は良質な夏そばを栽培しようと各地で試みがなされています。
また、南半球で栽培すれば季節が反対だから今の季節においしいそばを食べることができるという発案で、日本のそば産地の風土に良く似たオーストラリア、タスマニア地方にてそばの栽培に成功しています。ここまでのこだわりはそば好きの恐ろしい欲求、熱意があってこそです。
この季節のそばは、概していえば粘りが少なくぼそぼそとなる傾向があります。また香りもすこし蒸れたような匂いに変化しているそばに出くわすこともあります。近年の異常な暑さはそば屋にとっては経験したことの無い事態です。年中通してそば屋通いをしている私にとっては、新そばは秋の楽しみとしてとっておき、店主のそばへの情熱の差が顕れてくる「夏のそば」も食べ歩き、食べ比べをしています。細かい配慮や工夫次第で納得のいくそばに仕上がる筈です。この季節は夏バテしたようなダレたそばより、冷水でシャキッとしめたコシのあるそばを食べたくなるものです。
但し、夏でも或るお店に入ると何故だか必ず釜揚げそばを注文してしまいます。汗を掻き掻きそばを手繰っている姿は、まさにそばっ喰いの証しでしょうか。
夏でも美味しいそばでもてなすお店こそ本物のそば屋です。(小村晃一)